更新日:2021.06.30トランペットならぬヴァイオリン
トランペットならぬヴァイオリン
みなさん、いかがお過ごしでしょうか?
相変わらず私たちはマスクを着用し、会話は控えめにすることが求められている中、園内の野鳥たちは繁殖期真っ盛りでそんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりに、毎日元気良くさえずっています!
一方、こちらは物静かなタンチョウのタイラ(オス)。今年の6月で30歳になる彼は、滅多に鳴いている姿を見ることがありませんが、やる気を出せば誰よりも大きな声で鳴くことができます。
大きな声を出す秘訣はタンチョウの気管にあります。次のレントゲン画像はタンチョウの胸部を撮影したものです。
気管の輪郭を青線でなぞってみると...、
なんと気管が胸骨の竜骨突起という部分に入り込み、内側を2周するようにして肺につながっています!(吸気の流れを矢印【→、―↠】で示しています。)
ツル科の鳥は首が長い分、気管が他の鳥よりも長いのは容易に想像がつきますが、ここまでとは...。
ちなみにスズガモの気管は次の通り。首からまっすぐ肺につながっていますね。
さらにある研究報告(Gaunt et al., 1987)によると、ツル科の鳥は気管がただ長いから大きい声が出せるのではなく、竜骨突起に沿うように渦巻いていることもポイントになっているようです。
ヴァイオリンの駒(ブリッジ)が弦の振動を楽器のボディに伝えるように、ツル科の気管【①】は呼気流によって生じる小さな振動(音)を竜骨突起【②】に伝達し、その振動に気嚢【③】が共鳴することで大きな声が発せられるそうです。
(【】内の数字は次図の数字に対応しています。)
つまり、ツル科の声はよくトランペットに例えられることが多いですが、発声のメカニズムとしてはヴァイオリンに近いのですね!
動物は奥深いですね~。この仕事、常に新しい学びがあり、飽きません!
<参考文献>
Gaunt, A.S., Gaunt, S.L.L., Prange, H.D., Wasser, J.S. 'The effects of tracheal coiling on the vocalizations of cranes (Aves; Gruidae).' Journal of Comparative Physiology A 161, 43-58 (1987).
(やまだ)