マレーバクの「ひでお」の死亡について(第3報)
マレーバク(ひでお)の死亡に関しては、現在も、関係各園(台北市立動物園および名古屋市東山動植物園)と情報共有しながら、今後の対策についての検討を続けています。その過程において現時点で相互確認できている情報は以下のとおりです。
〇移動の目的・経緯について
令和4年度第 5回(公社)日本動物園水族館協会(以下、「JAZA」と記す)生物多様性委員会マレーバク計画推進会議(令和4年11月 27日開催)で、マレーバクの繁殖をより効果的に行う取り組みの一つとして、よこはま動物園ズーラシアで繁殖したマレーバク(愛称:ひでお)を台北市立動物園に、台北市立動物園のマレーバクを名古屋市(東山動植物園)に移動することにより、飼育個体群に新たな血統を導入することが計画された。
その手続きとして、広島市(広島市安佐動物公園)が持っているマレーバク(ひでお)の所有権を一旦横浜市に移転し、その後、名古屋市(名古屋市東山動植物園)へ移転したうえで、名古屋市と台北市立動物園との間でマレーバク交換の契約を交わすこととなった。
〇搬出までの経過について
・令和5年3月21日
JAZA生物多様性委員会より、マレーバク(ひでお)の所有権の移転について、よこはま動物園の管理運営を行う横浜市緑の協会に打診があった。
・令和5年12月8日
広島市と横浜市との間で動物交換契約書が交わされ、マレーバク(ひでお)の所有権が横浜市に移転された。
・令和5年12月14日
名古屋市よりよこはま動物園での輸出検疫について依頼あり。協議の結果、移動による動物への負担を考慮しマレーバク(ひでお)は名古屋市に移動することなく、よこはま動物園内で検疫を行い、直接台北市立動物園へ出園することとした。
・令和5年12月20日
名古屋市と横浜市との間で動物交換契約書が交わされ、マレーバク(ひでお)の所有権が名古屋市に移転された。
・令和6年5月21日
動物検疫のためよこはま動物園のバク舎から検疫施設となる同園内にある動物病院へ移動し、翌日(5月22日)より検疫を開始した。
・令和6年6月21日
10:00頃に横浜検疫所の検疫官による確認作業が行われ、検疫が無事に終了した。
○よこはま動物園からの搬出当日の詳細な経過について
・搬出日:令和6年6月21日
天候:雨
気温:約20℃
・9:20頃 名古屋市東山動植物園より委託された動物輸送業者が到着。
・10:00頃 検疫官が到着し、マレーバク(ひでお)の健康等を確認した後、検疫終了。移動作業をする飼育職員等が動物病院に集合。
・10:25頃 輸送箱への収容完了。マレーバク(ひでお)は落ち着いて収容された。
・10:30頃 車両への積み込み完了。
・11:00頃 動物病院を出発(業者による陸送)。出発時まで動物は落ち着いており、時々輸送箱内で動いたものの暴れる様子はなかった。
・14:00頃 成田空港到着。
・14:55頃 業者より通関完了の連絡あり。
・15:00頃 輸送箱に雨除けおよび尿受け用のビニールを設置し、待機場所(22℃設定)へ移動。待機中、マレーバク(ひでお)に異常は認められなかった。
・17:00頃 航空機内に搬入。雨よけ用のビニールを外す。
・17:55頃 離陸(機内温度約26℃)。
・21:30頃(日本時間) 台湾着陸。
○台湾での状況(日本時間で記載)について
・21:30頃 台北市立動物園スタッフが空港に到着。
・22:25頃 同園スタッフが輸送箱の検査を開始。尿受け用ビニールに血痕を確認し輸送箱内のマレーバク(ひでお)の状況を確認したところ呼吸が確認できず、税関に協力要請して急ぎ通関し、空港を出発。
・6月22日1:00頃 台北市立動物園検疫舎に到着、マレーバク(ひでお)の死亡確認。深部体温は41℃であった。
・6月23日10:30~14:00 台北市立動物園において解剖を実施。よこはま動物園および名古屋市東山動植物園はオンラインで参加した。
<解剖所見>
外傷(頭部の広範にわたる擦傷、四肢の蹄の負傷、全身複数個所の擦傷)、皮下出血、肺水腫など。
〇死因についての見解
解剖所見や園に到着した際の深部体温が41℃に達していたことから総合的に考えて、
ヒートエグゾースチョン(heat exhaustion 熱疲労、中等症の熱中症)※により、全身の循環不全や血液凝固障害、肺水腫が引き起こされたのが死因と推定。
※ヒートエグゾースチョンについて
前回の第2報では、死因についてヒートストローク「高温・高湿の環境下などで体温の放散が妨げられたとき等に起こる高熱障害」とご報告しましたが、その後の関係各園との情報共有の結果、ヒートエグゾースチョンがより正確な表現であると確認しました。
なお、ヒートストロークもヒートエグゾースチョンも、広義の意味ではヒートストレスに含まれ、高温・高湿の環境下だけでなく、何らかの要因で体温の放散が妨げられたときに起こる高熱障害です。今回の件では、外部環境要因だけではなく、動物が興奮状態になったことで体温が上昇したことによる影響の可能性もあります。
今回の事例を教訓として、輸送が動物へ与えるストレスやリスクを最小限にするための方法および技術を改めて検討し最適なものになるよう努めます。
また、正確な情報をお伝えするために関係各所との確認を行っていたため、情報発信に一定の時間を要しました。ご理解の程お願いいたします。