更新日:2021.10.16カンガルーの歯
カンガルーの歯
金沢動物園はカンガルーの飼育頭数が他の飼育種に比べて多いため、必然的に治療の件数も多くなります。誰も治療個体がいない幸せな時期もあれば、4頭ほどに投薬をする日も出てきたりします。
治療内容は様々ですが、中でも多いのは口腔内の治療かもしれません。口腔内の治療は、大きく臼歯の治療と切歯の治療に分けられます。臼歯治療の原因としては、一つ目は採食中に歯肉などを傷つけ、そこから感染をして腫れるパターン。2つ目は、オオカンガルーは2才頃になると一部の小臼歯が水平置換で生え変わります。この時期に開いた歯肉の穴に餌が入り込むなどで細菌感染をして、下顎が腫れてしまうパターンです。
次に、今日の本題、切歯治療の原因です。カンガルー類は双前歯目というグループに分類されますが、文字通り下顎に2本の前歯(切歯)あります。この切歯が厄介で、他の歯に比べてとても長いのです。
これは以前金沢で飼育していた大人のカンガルーの骨標本です(動物園で亡くなった動物は、そこで終わりではなく様々な形で残し、教育普及材料として利用させてもらいます。)これだけでも、切歯がちょっと変わった形をしていることが分かりますね。
こちらはまた別のカンガルーのレントゲン写真です。赤く印がある所が下の切歯です。骨標本で見えている部分と見比べると、骨に埋まっている部分も長いことが分かります。
次は、飼育中のカンガルーで切歯を見てみましょう。
チラッと見えているのが、切歯の先端です。
カンガルーのちょうど良い写真が見つからなかったので、パルマワラビーです。
長い切歯が見えますね。
この切歯、転んだりするとすぐに根本で折れたり、先端で欠けてしまったりします。そこから感染をおこし、切歯の付け根の下顎が腫れてしまいます。なので、一口にカンガルーの顎の治療といっても、細かく分けると原因や患部は様々なのです。
これらの疾患は、薬を飲むだけで治まることもあれば、問題の歯自体を抜いて患部をきれいにすることで症状を改善させることもあります。悪化すると治癒までに時間がかかりますが、早期発見・早期治療をするとあまり大事にならずに、通常の生活がおくれます。担当者は常にカンガルーたちの顎を触りながらチェックしているのです。
そして先日、展示場で少し元気のなさそうな個体を発見。下顎を触ってみると、少し温かく熱をもっている!過去に切歯を治療し、その時は抗生剤を飲むことで症状が治まっていましたが、どうやら再発したようです。
今回は麻酔をかけて、問題の切歯を抜くことになりました。せっかくなので、色々な角度から抜く前の切歯を見せてもらいましょう。
右側に映っている長く前に突き出ているのが、下の切歯です。先端が欠けているのが分かりますか?左右ともに欠けてはいるのですが、今回は顎が腫れている右下の切歯を抜きます。
下唇をめくったところ。
治療は1時間ほどで終了し、この個体は無事に群れに戻りました。しばらくは口が痛いはずですが、抗生剤を飲んで2~3日すればいつも通りに元気に餌が食べられるようになるでしょう。
近年の金沢のカンガルーたちは、どちらかというと臼歯よりも切歯の治療が多いです。カンガルーたちの口元をよーくみると、切歯が1本しか見えなかったり、下唇が少し引っ込んでいる個体が見つかるかもしれません。それは過去に歯の治療を頑張った個体かもしれません(元から少し引っ込んでいる個体もいます)。
驚いて障害物にぶつかってしまうことももちろんありますが、走っていて急に転ぶ姿を見ることも...。すべての怪我を防ぐことはなかなか難しいのですが、できるだけ平穏に過ごしてほしいと担当者は切に願っています。
(しばた)