更新日:2020.05.07四十九日が過ぎて・・・
四十九日が過ぎて・・・
3月12日に、オカピのピッピが死亡しました。母親のレイラは数年前に既に死亡していますが、献花台が用意され、多くの方々からその別れを惜しんでもらいました。
世界中がこのような状況にあるため、開園することができない間に息を引き取り、ピッピの献花台は設けられないままです。
今回、彼女が生まれた頃の壮絶なエピソードをご紹介しますので、皆さまの記憶に残してもらえたらと思います。長くなりますが、良かったらお付き合いください。
2000年11月21日の早朝、6時9分にアジアで初めて生まれたオカピ、それがピッピでした。私はその当時オカピを担当していて、もう20年近く前になりますがこの日のことは今でも鮮明に覚えています。
当時はまだアフリカの熱帯雨林ゾーンはできておらず、今、モウコノロバを飼育している場所で飼育していました。エコー検査で妊娠が確認された時の喜び。モニター越しに出産が確認された時の感動。順風満帆のように進んでいました。この先に待ち受けていた衝撃を見るまでは・・・
↓ これがエコーの画像です('ω')ノ
当時、世界でのオカピの飼育園と頭数は現在の7割ほどで、もちろん国内はズーラシアだけでした。
当然出産を経験した動物園は海外だけで、いくつかの動物園にアドバイスをもらって、準備を進めていました。
子は出生後10分後くらいで上体を起こしたりし始めました。その間もレイラは非常に落ち着き、子を丹念になめてあげていました。そして30分も経たないうちに、子はおぼつかない足取りで立ち上がるがよろけて、レイラの後肢にぶつかってしまい、反射的にレイラに蹴られてしまいました。出生後1時間もすると、子はよろけながらも母親のレイラに接近を始めました。レイラは左後肢に子が触れると、小刻みに肢を震わせ授乳を嫌がり、子は尻もちをついてしまいました。しかしこの後、誰もが予想していない展開が待っていたのです。
7時半頃だったでしょうか? 誰もが目を疑いたくなるような攻撃が始まったのです。何と、レイラは近づく子を蹴り飛ばしたのです(@_@)。時には子を後肢で蹴り、すぐに向きを180°変えて子に向き直り、敵意を表しているようにすら見えました。その後も、レイラの子に対する蹴るという行動は収まらず、後肢で蹴った後、前肢で再び蹴ることまでしていました( ゚Д゚)。
か弱い新生児が蹴り殺されるのでないか? そんな状況が続きました。
レイラは面倒を見なかった訳ではなく、それ以外は普通の母親がするように子を丁寧になめてあげていて、攻撃することはありませんでした。しかし、オッパイだけはどうしても与えてくれず、時間が経過。
数ヶ月前、渡米した際に指導を仰いできた結果、子が乳に吸い付くまでは獣舎に入らず、モニターのみの観察とすること、としていたのです。しかしこのような状況なので、何もしないわけにはいきません。あらかじめ用意していた牛の初乳を飲ませようとしましたが、なかなかうまくいきませんでした。
そのような状況が続く中、既に2回目の夜を迎えようとしていました。夜が明けてもまだ母乳を飲めないようなら、人工哺育に切り替えることが決まり、最後にもう一度哺乳をチャレンジすることになり、19時過ぎに獣舎に向かいました。この際少量ではありましたが子は初乳を飲み、これをきっかけに座ってばかりいてすっかり母乳を求めなくなっていた子は、再び母親を追いかけはじめました。子も母親の蹴り方を覚えてきたのか、同一方向からではなく、真後ろや股の下から乳首に吸い付いたり、懸命に乳を求めて行動を再開したのでした。
ボーッとしながらも「レイラ、オッパイを飲ませてあげて!!」と、願いながらモニター画面を眺めていました。「ボーッとしながら」なんて、不謹慎かもしれませんし、〇コちゃんに叱られるかもしれませんが、生まれる前の日から、もう2晩の徹夜が続いていたもので・・・(+_+)
そんな中、母親のレイラも徐々に許容し始め、22:45頃より乳首に吸い付くようになり、22:51にはモニターで子の喉と頬が動いているのが確認でき、授乳に成功したことが確認できたのでした。まだ何度か蹴る行動は見られましたが、確実に頻繁に授乳をしてくれたのです (*´ω`*)
生後41時間余り。本当によく頑張ったと思います。
翌朝、レイラは母親らしい顔つきに変わっていました。
そして子はこれまで飲ませてもらえなかった分を挽回するかのように、懸命にオッパイを飲んでいました(#^^#)
授乳については一件落着。その次は初めてする排便の速さに悩まされたのでした。
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何のこと???
そうですよね??オカピの不思議をここで紹介していきますね! 既に歴代の担当の誰かが、このブログ等でお知らせしているかもしれませんが、オカピは生まれてからしばらく、排便をしないんですよ!!
1~2ヶ月して初めての排便をする動物なんです!!!
しかしこの時は、わずか5日齢で排便をしたため、これまた一大事でした。
たぶん、牛の初乳という異物が体内に入ったことが原因かと思います。およそ1週間、排便が続きましたがその後止まり、次に排便が確認できたのは、それから65日あまり経過してからでした。
↑ これが、65日後、77日齢での排便の様子です('ω')ノ
続く悩みの最後は、ある程度予想していたレイラによる、過度になめる行動(オーバーリッキング)でした。この行動が見られ始めると、子の尾の付け根部分は見るからに痛そうになっていきました。
オカピの秘密をもう1つ教えちゃいますが、オカピの舌はすごくザラザラしているんです。まるでネコの舌のように( ゚Д゚)
返しののような突起があるので、舌を引く際に引っかかって、なめられ続けると悲鳴をあげるほど痛いんですよ・・・
この行動は予測していたので、対処方法も用意しており、なんとかなりました。この仕切り扉は、母親が通れない高さになっているので、なめられたくないピッピは、自分で安全地帯を見つけて覚えたのでした( ^ω^)・・・
成獣と比べると、首が短くて、肢が長く、独特の体形をしています。
そして・・・ もう1つ! 子の特徴を教えちゃいますね!!
オカピは幼少期のみ、タテガミがあるんです!
今のモウコノロバの展示場ですが、元気いっぱいに駆けまわっていました('ω')ノ
美形だったお母さん、レイラ。そして毛足が長くて、ちょっとずんぐりした感じのピッピ。
当時の制服は、こんなのだったんですね(笑)
オカピが初めて日本に来て20年以上が経ちました。当初、オカピを知らない人も多かったのですが、今ではすっかりメジャーになりました。
私の当初の目標は、オカピを適切に飼って、国内での飼育を軌道に乗せる。多くの人に、オカピという動物を正しく知ってもらう。2世を誕生させる。
ここまでの目標は、だいたい達成できたと思っていました。
初めての繁殖に成功したご褒美に、血統の良いオス(愛称:ホダーリ)を贈ってもらいました!しかし次の目標、ピッピをお母さんにする!これは私が担当している間には達成できませんでした。何度も、交尾まで確認できたのですが・・・(+o+)
時には、ホダーリの乱暴な攻撃に対し、横臥して拒絶することもありましたが・・・( 一一)
妹のルルと母親のレイラと一緒に展示していた事もありました!
3頭のオカピが一緒に展示されていた贅沢な頃ですね('ω')ノ
私の担当期間が終わってすぐ妊娠したピッピは、2006年に母親になっています。
そして、2014年にも( ^ω^)・・・
最後になりますが、父親のキィァンガは、今日5月7日で24歳になりました。今も金沢動物園で元気に暮らしています。
ピッピは今頃天国で母親のレイラと再会している事でしょう。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
初代オカピ担当者
石和田 研二