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群れに戻ること・1頭で暮らすことの写真

更新日:2022.03.25群れに戻ること・1頭で暮らすこと

更新日:2022.03.25

群れに戻ること・1頭で暮らすこと

リーダーのジュタロウが2021年10月に死亡したあと、オス群れのリーダー不在期間が、予想以上に長くなりました。

ジュタロウの前のリーダーだったヨッチャンが群れを追われて1年1カ月たちました。
非展示エリアのサブ展示場で暮らしていますが、扉にツノ突きをするなど、体力的にも隠居生活に入るのはもったいないと思っていました。

「俺もあっちに行きたい。」.jpg

(展示場に通じる扉の前でツノ突きをした直後のヨッチャン。)

ジュタロウ亡きあと、残っているオスたちは割と穏やかな性格の個体ばかりで、群れも穏やかな状態の時間が多くなりました。

このタイミングなら、もしかしたらヨッチャンも群れに戻ることができるのでは?と思い、
繁殖シーズンが落ち着いた3月中旬に、オス群れへと復帰する計画を実施することにしました。

少し後肢に問題のあるヨッチャンが、オス群れの展示場のようにアップダウンの激しい岩山をスムーズに移動できるようにと、サブ展示場にある階段で歩行に問題がないかを数カ月前から確認してきました。

そして、ヨッチャンが岩山の展示場に出る日がきました。
この日は3月とは思えないほど気温が高い日でした。
初日は歩行の確認と、ヨッチャンの安全を確保するために1頭だけで放飼です。

いつもは閉まっているはずの、展示場に通じる扉が今日は開いています。展示場に出かけてよいのかと戸惑っているかのように立ち止まって、こちらを見るヨッチャン。その後、駆け足で展示場へと出かけていきました。

久しぶりの展示場.jpg

(久しぶりの展示場に出たためか、少し落ち着かないヨッチャン。)

眼下に見えるメスたちに向かって、大きな声で「ベェ~~!!」と鳴き、展示場のニオイを確認しています。心配だった後肢の具合も大丈夫です。少しエサを食べた後は、日当たりの良い場所で休んでいました。

「お、メスいるじゃん」.jpg

(「お、メスがいる!」眼下に見えるメスに釘付けです。)

「とりあえず腹ごしらえするか」.jpg

(少し落ち着いてきたヨッチャン。「とりあえず、エサ食べよう。」)

久しぶりに1日中展示場に出たことの疲れと、暑さのためか、エサを食べた後はすぐに休んでいました。

やはりヨッチャン1頭だけの放飼だと、ほとんど動くことがないので、次のステップとして、オス群れの中でも順位が低いタイヨウとパルを一緒に展示場に放飼することにしました。
あくまでも、タイヨウとパルの役割はヨッチャンに動きを促すためです。

ヨッチャンが展示場に表れても、タイヨウは、気にすることなく、さっさとエサを食べに行きました。
しかし、パルはヨッチャンに敵対心を全面に出して、ヨッチャンに付きまとっています。
すると、「カツ~ン!!」と大きなツノ突きの音。パルがヨッチャンに対して攻撃を仕掛けました。
もちろん、ツノ突きをすることは想定内のことなので、こちらも様子を見ていました。
その後も何度もツノ突きをする2頭。次第に息が上がってくるヨッチャン。1年以上のブランクと加齢による体力の低下は否めません。それに対して、若いパルは体は小さいけれど、体力もあります。少し逃げ腰になるヨッチャンをしつこく攻めています。すると、その様子を見たタイヨウまでヨッチャンを攻め始めました。

ヨッチャン襲われる①.jpg

(ヨッチャン(左)の動きを見張っているパル(右)とタイヨウ(中央)。)

ヨッチャン襲われる②.jpg

(ヨッチャンに対して攻撃体勢になっているタイヨウ。)

まさか、群れの最下位の2頭に攻められるとは予想もしていませんでした。

ついに2頭に追いかけまわされ、ヨッチャンは反撃もできず逃げるだけで精いっぱい。
これ以上一緒にいることは危険と判断し、ヨッチャンをサブ展示場に避難させ、復帰計画は中止することにしました。

疲れたヨッチャン.jpg

(サブ展示場に戻り、ようやく落ちついたヨッチャン。)

群れから追われた個体が、もう一度群れに戻ることの難しさを改めて感じました。

どの個体もできるだけ良い環境で、元気で長生きしてほしいと願っています。
ヨッチャンは群れには戻ることはできませんでしたが、ヨッチャンが穏やかに暮らせるように、今後の暮らしを考えていこうと思います。

さとう