更新日:2023.09.26ヒメありがとう
ヒメありがとう
9月19日の朝、いつものようにプールに入り、いつものように「ひめー」との呼びかけに歩み寄ってくれ、食べこそしないものの、いつものように朝ごはんのニジマスに顔を寄せ、いつものようにお気に入りの麻袋の上でずっと横になり...
そしてヒメはそのまま午後、静かに息を引き取りました。
くりくりの目に長く立派なひげが特徴のヒメ。若いころは...
お部屋に配置しているスノコやプールをひっくり返したり、自分の体重の何倍もあるコンクリートの塊を動かしてしまったり...そんな小さな体のどこにそんなパワーがあるの?と思うほど、暴れん坊な一面もあるユーラシアカワウソでした。
展示場の一部を破壊してしまったこともありましたね...
展示場では、せっせと落ち葉を運んでお気に入りの寝床を作ることもよくみられました。
イベントで活魚を与えた際には、岩に隠れた魚を捕えては、また放し...を繰り返し、直線的な素速い泳ぎに野性味溢れる力強い様子をみせてくれました。
ペアを組んだオッチー(2018年死亡)とは子宝にも恵まれました。
ヒメは、私たちが試行錯誤を繰り返し飼育管理を改善しても、子育てをすることはみられませんでしたが、私たちが生まれた子を育て上げる技術を獲得するための機会を与えてくれました。
そのおかげで、国内初の人工哺育による成育に成功し、立派に育ったリュウは今でも広島市安佐動物公園で飼育されています。
オッチーが先立ってからは、1頭マイペースでの生活。
夕方、長く深い睡眠から目が覚めると、プールで泳ぎ、地面でくねくねにょろにょろ。
カワウソにとって大切な毛のお手入れを終えてからでないと、お部屋へと足を運びません。ヒメはルーティーンが大事なので、そんなヒメがお部屋に帰ってくるのをただただじぃ~っと待つ日もありました。
園路工事による亜寒帯の森ゾーンの長い封鎖期間には、同じような毎日を過ごしながらも、長いこと寝ていたり、足腰も弱くなってきたり、安定していた食欲が乱れるなど、少しづつ年を取ってきたなぁと感じることも目立ちはじめました。再びみなさんにヒメの姿をご覧いただけるだろうか...と考える日もありました。
何日も魚をまったく口にせず、もう厳しいかな...と思っていると、翌日には鳴きながら扉を叩いて魚を催促する元気なヒメに会えたり、こんなことが長いこと何回も続きました。
心配は良い意味で裏切られ、結局園路工事終了後も展示場でみなさんにヒメの姿をご覧いただける機会ができましたし、本当に最期までよく生き続けてくれました。
最期の時もまた、明日にはいつものように食欲が復活して元気なヒメに会えるといいな...と思っていました。
ズーラシアの開園の時からこれまでの間、ユーラシアカワウソ中国亜種の飼育を続けてまいりましたが、とうとう途絶えることになってしまいました。命を繋いでいくことが出来なかった自分たちの技術不足を反省せねばいけませんし、残念でなりません。寂しくなりますね...。
ヒメが与えてくれたこと、ユーラシアカワウソ欧州亜種の管理に活かし繋いでいきます。
ヒメありがとう。
担当:いとう さくら