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タヌキ、おもひで、褪せぬ間にの写真

更新日:2024.11.06タヌキ、おもひで、褪せぬ間に

更新日:2024.11.06

タヌキ、おもひで、褪せぬ間に

11月に突入し1年の終わりが見えてきた今日この頃。
季節外れの暑さも落ち着き、秋も深まり、タヌキと言えば冬に向けて膨らむ季節になりました。
当園で展示のタヌキ達も冬仕様へと変わってきていますし、寒いのが苦手な私も厚着が捗るというものです。

ふくよか冬仕様ヒフミ

(ふくよか冬仕様ヒフミ)

 

さて、今回はついに保護タヌキ放野のお話を。タヌキ回は恐らく最終回です。
それなりに長いブログになってしまいましたので、読むタイミングにはお気をつけて!

前回のブログはこちら

 

本題に入る前に「放野」とは何かを軽く説明しておきます。

野毛山動物園含む横浜市の3園では、神奈川県の事業委託を受けて「傷病鳥獣保護事業」を行っています。
この事業では、主に人為的な要因でケガあるいは疾病のある野生動物を保護受け入れし、治療やリハビリなどを経て、野生に帰すという取り組みを行っています。
この野生に帰す、というのが「放野」にあたる部分です。
(野毛山動物園では、お問い合わせをいただいた上で保護不要と判断した動物は受け入れをお断りしています。)

 

今回のタヌキの件でいえば、人為的な理由で親とはぐれ、元の場所に戻したとしても生きていけないと判断された仔ダヌキを保護受け入れしました。
彼らをひとり立ちするまで育て、放野するというのが目標だったわけです。

A哺乳中

(哺乳中のA

B仰向けで

(仰向けinタオルのB

 

タヌキのひとり立ちは生まれた年の秋冬と考えられています。
春に生まれ、成長と共に親や兄弟と遊びながら社会性をはぐくみ、餌をとることを覚えたら、食欲の秋には新天地を求め徐々に群れから離れるようです。
もちろん例外もあるようで、母タヌキの出産に立ち会い、ヘルパーとして子育てに参加する個体がいたとの報告もあります(宮本ら,2023)。

 

この生活史にならい、仔ダヌキの放野は秋に決定しました。

山の実りも多く、小型の生き物も哺乳類に限らずたくさんいる時期ですから、我々の手を離れても食い免れることはないと考えています。

 

当該タヌキたちも知ってか知らずか、徐々に飼育員から目先の興味に惹かれるようになりました。本能はきちんとひとり立ちに傾いていたようです。

飼育員を気にしなくなってきた頃(飼育員を気にしなくなってきた頃)

 

放野当日。

いつもとは違う異質な雰囲気を感じ取ったのか、放飼場の中を逃げ回るタヌキたち。

なかなか素直には捕まってくれませんでしたがなんとか捕獲。
その後体重を測らせてもらい輸送用のケージに入ってもらいました。

荷台に積み込まれたAたち

(荷台に積み込まれたA

 

相変わらず金沢号は小屋に入って出てきませんでしたので一番最後の捕獲になりました。

 

それにしてもみな本当に立派になりましたね。
個体差はあるもののこれぞタヌキ!という貫禄があります。

タヌキらしくなったA

(タヌキらしくなったA

タヌキらしくなった白

タヌキらしくなった白)

保護当時はあんなに小さかったのに...、と振り返ると思わず涙が出てきてしまいますが、心に鞭打ち、いざ野生の地へ。

 

かなり大きく重くなったタヌキたちを両手に持ちながら、山道をグネグネ歩いていると寂しいながらもここまで育て上げたのだという自信が一層湧いてくるというもの。きっと野生でもうまく生きていてくれるはずです。

彼らへの最後の願いは絶対にヒトに見つかるんじゃないぞ、というものになりました。

 

放野予定地に到着しケージを開け少し離れたところから観察します。

最初に出て行ったのは飼育時から物怖じしない性格だったBでした。気になるものがあったのかずんずん藪の中へ消えていき、写真もまともに撮らせてくれず去っていきました。
その背中を追いかけるように金沢号が飛び出し、同じ方向へ消えていき...。

B突き進む

B森の奥へ)

Aを含めその他タヌキたちはしばらくその場で、探索してはケージの元に戻り、また探索しては戻りを繰り返していました。

最終的に、藪の中でガサガサし始めたタイミングを見計らい私がケージを回収して少し距離を取り、そのうち気にしないようになってきたため「放野」と相成りました。
A顔を出す

藪をがさがさ

いってらっしゃい

いってらっしゃい2

 

軽くなった輸送ケージを車に積んでの帰り道は、寂しさに達成感の混じった哀愁ある道程になりました。この気持ちはブログでは書ききれませんのでまたの機会に(あるのか?)。

 

半年間という長いようでとても短い期間を彼らと過ごせたことに感謝しながら、保護タヌキたちのブログはここで閉じたいと思います。

 

 

最後に、タヌキのブログを見てくださった方にお願いです。

幼い野生の命を見かけても安易に手を差し伸べないようにお願いします。
彼らは自然の循環の一部です。きっとそばには(ヒトにみつからないような所から)親が見守っているはずです。幼いだけの彼らは、我々ヒトが子育てするよりも実親が子育てした方がしっかり発育するはずですから、そっと、干渉しないようにやさしく見守ってあげてください。

 

それでも、どうやらおかしいと思ったら、保護する前にまずは近くの動物園を尋ねてみてくださいね。

 

 

長らくタヌキと共にお付き合いいただきありがとうございました!!

次回からは保護鳥類の話題でつなぎます。

お楽しみに。

おもひで

タヌキオタクの傷病鳥獣担当

 

*参考文献

宮本慧佑,永野有希子,松林向志(2023):「都市近郊におけるタヌキの農地選択性」哺乳類学会,631):43-52